執筆:内野 真 弁護士    

1. はじめに

  政府が推進してきた「働き方改革」では、長時間労働の防止や、育児・介護と仕事を両立できる社会の実現が目標となっております。働き方改革では、テレワークや柔軟な勤務時間体系を導入することが推奨されてきましたが、令和2年になって、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、各会社では在宅勤務や時差出勤の導入が大きく進んでいます。

2. 在宅勤務の留意事項

(1) 労働時間に関する留意事項
① 労働時間の適正な把握
  使用者には在宅勤務の場合にも当然労働者の労働時間を正確に把握する義務があります(労働安全衛生法66条の8の3)。労働時間の把握は、単に「何時間働いたか」ではなく、「何時から何時まで働いたか」までを把握する必要があります。
職場に出社する場合には、その労働者が職場に何時から何時まで働いていたのかを把握しやすく、上司が残業せずに帰るように指示するなどして長時間の残業を防ぐことができます。
しかし、在宅勤務ですと、上司の目が各労働者に及ばず、労働者が際限なく残業を続けることや、出退勤の打刻はしているが、その後も働き続ける「隠れ残業」をすることの防止が困難になります。
こうした長時間労働や隠れ残業を防止するために、例えば定時以外のメールの送信を禁止する、会社貸与パソコンの起動時間が記録される設定をする、22時以降は会社のサーバーにアクセスできない設定をするなどして、長時間労働や隠れ残業を防止するための仕組みを作ることが望ましいといえます 

② 中抜け時間の取り扱い
  勤務時間の途中で休憩時間以外に仕事を抜けて、私用の外出などを行っている時間を中抜け時間といいます。たとえば、労働者が通院のために、休憩時間を1時間延ばした場合などです。中抜け時間の間は労働時間ではないので、使用者は労働者に指示を出すことはできず、労働者はその間の賃金の支払いを請求することができません。
使用者としては、労働者の中抜け時間を認めつつ、賃金を減額させない方法として次のように取り扱うことが考えられます。まず、1時間の中抜け時間があった場合に、退勤時刻を1時間遅らせるという措置です。この措置を執るためにはその旨を就業規則で定めることが必要です。次に、中抜け時間に時間単位の年次有給休暇を充てることが考えられます。時間単位の年次有給休暇を充てるためにはその旨の労使協定の締結が必要になります。 

(2) 在宅勤務のための環境整備に関して
  
通常会社のオフィスには、デスクワークに適した机、椅子、照明などが備え付けられています。しかし、労働者によっては自宅で業務を行うことを想定しておらず、業務を行う環境が整っていない場合もあります。たとえば、照明が薄暗いものしかなかったり、デスクワーク用の机と椅子がなかったりする場合もあります。こうした環境での労働は、オフィスで勤務をする場合よりも労働者の心身の健康を害すリスクが高いといえます。使用者には労働者が労働によって健康を害することのないように、心身の安全に配慮する義務があります(安全配慮義務、労働契約法5条)。
そのため、労働者が在宅勤務でも心身の健康を害することがないように、会社としては在宅勤務の環境整備のために一定の補助を出すことが考えられます。
その場合、会社が在宅勤務の導入費用を負担する場合にもその限度額がいくらまでなのかなどを就業規則に定めることが望ましいです。

3. 時差出勤・フレックスタイムの留意事項

(1) 時差出勤
  
満員電車での通勤によるコロナウイルス感染リスクを下げるために、在宅勤務と同じく推奨されているのが、時差出勤・フレックスタイム制です。
時差出勤は、あらかじめ使用者が提示した複数の勤務開始時間の中から労働者が自己の勤務開始時刻を選択し、あるいは使用者が各労働者に出勤時刻を指定して各労働者が別々の時間に勤務を開始するものです。
時差出勤は、1日の勤務時間が変わらず、出勤時刻が早ければ退勤時刻も早まり、出勤時刻が遅くなれば退勤時刻が遅くなります。始業時刻と就業時刻は就業規則に記載しなければならない事項ですから、時差出勤として想定される始業時刻と終業時刻を複数設ける場合には、そのすべての時刻を就業規則に定める必要があります。

(2) フレックスタイム制
  また時差出勤の方法としてはフレックスタイム制を設けることが考えられます。フレックスタイム制は、労働者が自分で出勤・退勤時刻を決める制度のことをいいます。自分で決めるといっても、完全に自由に決められるわけではなく、コアタイムと呼ばれる勤務が必須とされる時間帯があり、その前後において出勤と退勤の時刻を選べるにとどまります(例えば、コアタイムが10時から15時とし、出勤時刻を7時から10時、退勤時刻を15時から22時で選択できる制度)。
フレックスタイム制の導入をするためには、就業規則等への規定と労使協定の締結が必要になります。

【参考】
厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html