執筆:田中 康敦 弁護士    



本日は農地と家族信託・民事信託(以下、「民事信託」といいます。)についてご説明します。本ニュースのポイントは以下のとおりです。

・農地を農地として利用する前提で、民事信託の信託財産とすることは困難です。

・農地を宅地等に転用(以下、「農転」といいます。)する前提であれば、民事信託の信託財産とすることができます。

・農転を行うためには、農業委員会の許可や届出が必要になります。

・農転の難易度は、対象地が市街化区域か市街化調整区域かに影響されます。

民事信託のお話を伺っていると、「農地は信託できません」という説明をされているケースがあります。この説明は正しい部分もありますが、間違っている部分もあります。

農地法において、農地の所有権移転は農業委員会の許可が必要であることを定めてあります。その許可を許さない場合の一つとして、「信託の引受けにより第一号に掲げる権利が取得される場合」(農地法3条23号)と明文で規定されています。この条文だけを見ると農地は信託できないという結論が正しいように思われます。しかし、農地法3条は、対象となる農地を所有権移転後も農地として使用するケースを想定しています。つまり、農地をそのまま農地として利用する前提で信託することはできませんということが正しい表現になります(厳密には、農業協同組合などが受託者となって信託ができるケースもあります)。

では、農地を宅地に転用すれば、民事信託の信託財産とすることができるのでしょうか?

再び、農地法の話に戻ります。農地法は、農地が貴重な資源であることにかんがみ、農地を農地以外のものにすることに制限を加えています。そのため、農転の手続きを行うにしても、農業委員会の許可(農地法4条)や届出(農地法5条)が必要になります。これらの要件をクリアーできれば、農転の上で民事信託の信託財産とすることが可能です。こういった文脈の中では、農地も信託できるということができます。

なお、農転の難易度は、信託を希望する土地が市街化区域にあるのか、市街化調整区域にあるのかで異なります。前者は、市街化を図る区域であることから、農業委員会への届出によって農転が認められます。先日、農転の上で農地を信託するため、農業委員会にて届出の手続きをしました。農地転用届出書のひな型が信託設定するケースに対応しておらず、電話で記載方法を確認しながらの届出となりました。ただ、窓口対応の職員の方も民事信託のことをご存じのようで(過去にも届出の実績があった地域のようでした)、スケジュールの遅れが生じることもなく、比較的スムーズに手続きを完了させることができました。

一方、後者は農地を維持する方向の地域のため、農業委員会の許可が必要になります。この場合、農転が許可されないことも多く、結果として、信託財産とすることができないおそれがあります。このため、市街化調整区域において農地を信託したいと考える場合は、任意後見や遺言などを併用することで、農業委員会の許可を得られなかった場合のプランBを準備するべきです。