弁護士法人Y&P法律事務所

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2020. 05.19 [ リーガルニュース ]

【新型コロナ(COVID-19)対策①】不動産オーナーが賃料の減額要請に応じる場合の法務上の注意点①

執筆:平良 明久

1. はじめに

  5月19日現在北海道、埼玉、千葉、東京、神奈川、京都、大阪、兵庫の8都道府県ではなおも緊急事態宣言が出されていますこのような中で、テナントなどの賃借人から収益の悪化に伴って賃料の減額を求められた場合、不動産オーナーとしてはどのような点に注意すればよいでしょうか。

2. 当事者間の任意の協議

(1) 賃貸借契約書と異なる取り扱いをする場合には、別途合意書や覚書を作成する
  例えば、テナントから6月分の賃料の減額を求められた際に、不動産オーナーがとりうる選択肢としては一般的に①6月分の賃料の全部又は一部免除する、②賃料の免除はしないが、支払期限を猶予する、③要請に応じない、といったことがありうると思われます。①②の選択をする場合においては、後日の紛争を防ぐために、合意内容を合意書又は覚書して明確に残しておくべきです。

  また、①②であっても、その対象となる賃料は6月分だけなのか、それとも数か月分を対象とするのか明確にしておかないと、不動産オーナーと賃借人で認識の齟齬が発生してしまう可能性があります。
サンプル書式①
サンプル書式②
】 

(2) 賃借人の財務状況の確認
  仮に賃借人が破産をしてしまうと、不動産オーナーは賃料を回収できなくなってしまいます。その観点から、不動産オーナーが一時的にテナントに対し、上記①②を行うという判断もありうるところです。その判断をする上で、どの程度テナントの財務状況が悪化しているのか確認するため、テナントに対し貸借対照表や損益計算書等の財務資料の提出を求めるといったこと考えられます。ただ、この点に関し賃貸借契約に特別の合意がなされていなければ、オーナーがテナントに対し財務資料の提出をもとめる法的な根拠はなくあくまで事実上のお願いにすぎませんので、テナントの協力があって初めて可能となります。

3. 借地借家法に基づく賃料減額請求とは

  上記2はあくまで当事者間の任意の協議に基づくものです。しかしながら、法的な根拠を持つ形でテナントから賃料の減額請求がなされる可能性もあります。借地借家法という法律では借地借家法の適用を受ける賃貸借契約については、同法11条地代増減請求」、同法第32条で「建物家賃の増減請求権」が定められています。 

  具体的には 

① 土地又は建物の租税その他の公租公課の増減
② 土地又は建物の価格の上昇又は低下
③ その他の経済事情の変動
④ 近傍類似の土地又は建物の地代等に比較して不相当

といった客観的な事情があって、現在の賃料が不相当だといえる場合に、賃料の増減が認められます。 

  借地借家法に基づく賃料減額請求は、最終的には訴訟手続で解決されることになりますが、訴訟手続の前に簡易裁判所での民事調停で協議を行う必要があります(調停前置主義)。そのため、テナントが不動産オーナーとの任意の協議を断念し、裁判所で手続きを進めようとする場合には、まずは賃料減額を求め、民事調停を提起するといった形になります。 

  次回の記事で、この借地借家法に基づく賃料減額請求についてはより詳細に解説します。 

4. 政府の緊急経済対策等

  新型コロナウイルスの感染拡大に対応する緊急経済対策を盛り込んだ令和2年度補正予算案が4月30日に参議院で可決され、中小・小規模事業者向けに支援がされることとなっています。また、5月19現在、上限額を設けたうえで家賃の3分の2を補助するといった案参照:自由民主党ホームページhttps://www.jimin.jp/news/policy/200139.htmlなど、中小・小規模事業者の家賃負担の軽減に関して国会で議論が進められています。 

5. まとめ

  不動産オーナーとしては、迅速に適切な情報を集約し、必要な対応を取るといった対応が必要になると思われます。 

以上