1. はじめに
新型コロナウィルスの感染拡大に伴う東京都の休業要請は今月19日に解除され、いよいよ新型コロナウィルスによる自粛からの脱却、再興が目標となってきます。
しかし、各メーカーの運営上、いまだ新型コロナウィルスの影響が存在し、トラブルに遭遇することもしばしばです。本稿では、メーカー取引において新型コロナウィルスにより発生するトラブルにつき、特に納期遅延にスポットをあてて、法的にどう評価するのかを整理します。
2. 納期遅延
(1) 問題の所在
メーカーは通常、契約に定められた納期までに製品を納入する義務を負いますが、新型コロナウィルスの影響で製造工程に遅れが生じ、納期を順守することができないことが考えられます。
(2) 民法上の整理
民法上、決められた納期に遅れることは履行遅滞と扱われ、契約の解除や損害賠償の責任を負う場合があります。ただし、帰責事由がメーカー側にない場合、つまり納期に遅れたのがメーカー側の理由ではなく、納期に遅れても仕方がないといえる事情がある場合には、そのような責任は負いません。
では、新型コロナウィルスの影響によりどのような事象が発生した場合、帰責事由がない(=責任がない)といえるのでしょうか。
3. 帰責事由への該当性
(1) 従業員に新型コロナウィルス感染者が出た場合
従業員に新型コロナウィルス感染が発覚した場合、感染者及び濃厚接触者の出勤停止、一時的な業務停止、保健所の指導による関係箇所の消毒、他の従業員の自宅待機などの感染防止措置策を講じたことにより納期への遅れが生じることがあります。このような事情は衛生管理のために必要な措置ですから、メーカー側が責任を負わない方向での有力な主張となります。
ただし、従業員の感染があったとしても、納期に直接関連するかは個別事情によります。合理的な対処を行っていれば納期に間に合ったと考えられる場合には、責任を負う可能性がありますので注意が必要です。
(2) 調達の遅れ
製品を製造するには原材料や部品の調達が必要ですが、新型コロナウィルスによりそれらを調達できない場合はどうでしょうか。
コロナウィルスの影響にかかわらず、原材料等の調達が間に合わないことは一般的にありうることかと思います。そのような場合に備えて調達先を複数準備し、納期に遅れないようにしておくことも一般企業において必要な措置といえます。よって、そのような対処をしていない場合には、責任を負う可能性があります。
他方、新型コロナウィルスは広い範囲で感染が拡大した通常では考えられない事態であることも事実です。複数の調達先全てが新型コロナウィルスの影響を受けていた場合など影響の程度によっては、メーカー側に責任がないといえるケースもあるでしょう。
(3) 緊急事態宣言等、国や地方自治体の要請による遅れ
地方自治体によるさまざまな要請がなされていますが、これらに従って自粛した場合、帰責事由はどうなるのでしょうか。
「自粛の要請」はメーカー側の判断で自粛しないこともできるということで微妙な要素を含みます。行政からの要請は、内容を業種に分けてホームページ等に掲載している例が多いのですが、これらの記載と業種、地域、要請がなされた時期、感染者数等の各事情を踏まえて、納品の遅れにつきメーカー側が責任を負うかどうかを判断していくことになります。
4. 代金の支払い遅延について
民法上、代金支払いの遅延については、帰責事由があってもなくても責任を負うことになります。遅延した代金の支払いについては、契約で定めた利息(定めていない場合には、法定利率)を付して代金を支払うことになってしまいますので、ご注意ください。
5. 行政による各種対応
新型コロナウィルスの感染拡大に対応として、東京都では東京都防災ホームページ(https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/index.html)等で時期や業種に合わせた対応策を公開しています。これらの各地方自治体の情報発信に留意することは、合理的な対処を行うために重要なことといえます。
6. まとめ
新型コロナウィルスにより問題が発生した場合、各メーカーが関係各所と交渉を行い、折り合いをつけていく形が多いと思います。その際に、自分の主張が法的にどのような位置づけになるのかを念頭において、交渉を行うことが大切です。
以上
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