弁護士法人Y&P法律事務所

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2022. 03.03 [ リーガルニュース ]

公益通報者保護法の改正法の施行日が2022年6月1日になりました

執筆:細田 隆

 1.はじめに

2020年6月に公益通報者保護法の改正法が公布され、公布日から2年以内の政令で定める日から施行されることとされていましたが、本年1月4日にその政令が定められ(令和4年政令第8号)、本年6月1日から改正法が施行されることが決まりました。
この公益通報者保護法の法改正の詳しい内容は、このリーガルニュースの2020年6月10日付の「公益通報者保護法が改正され、公益通報に係る対応窓口の設置等の体制整備が事業主の義務となりました(施行は2年以内)」の記事でもご紹介したところです。興味のある方はそちらの記事もご覧ください。
改正前の公益通報者保護法においても、事業者が公益通報を行った者に対して不利益な取扱いをすることは禁止されていますが、今回の法改正の主要なポイントは、上記の2020年の記事のタイトルにも示したように、事業者に対して、公益通報への対応について窓口設置などの体制整備を求めていることです。なお、厳密に言えば、常時使用する労働者の数が300人超の事業者には体制整備を義務付け、300人以下の事業者については体制整備の努力義務が課せられるということになっています。
改正法の施行に向けての準備として、この公益通報者保護法を所管する消費者庁からは、すでに2021年8月に、体制整備の具体的な内容を示す告示として「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)」が示され、同年10月にはその指針の「解説」が公表されています。
各事業者としては、改正法が施行される本年6月1日までに、改正法や消費者庁の「指針」と「解説」に沿った公益通報への対応の体制整備が求められています。
「指針」と「解説」には具体的な内容が詳しく書かれていますが、この記事では、改正法の施行にあたり、事業者の方々に踏まえていただきたい基本的な考え方について述べます。

2.事業者の姿勢

多くの事業所においては、すでに、公益通報制度というより内部通報制度という名で何らかの通報制度を設けている場合が多いと思われます。その際事業者としては、まず第一にこの内部通報制度を前向きにとらえていくことが肝要です。
各事業所においては、この内部通報制度を通じて、職場における「悪い話」、「いやな話」や「あって欲しくない話」が伝えられていると思います。できれば通報はない方がいいと感じている向きもあるかもしれません。しかし、内部通報制度はそもそもそうした歓迎されない話を掘り起こすことを目的としています。通報対象となるような話は、そのまま放置されていれば、時とともに事態は悪化して、より悪い話になってしまう恐れが十分にあります。内部通報制度が存在し、その制度を利用した通報があったことにより、こうした事業所内における問題点が早く見つけられたので、早く手が打てた、と前向きにとらえていくことが、何より重要です。
そのようにこの制度を前向きに受け止めれば、制度がさらに利用しやすいものにしようと考えていくことになります。事業者としては、まず、このような姿勢が第一に重要です。

 3.内部通報制度の対象

公益通報者保護法で対象としている公益通報とは、法令に違反する違法行為のうち、一定の違法行為についての通報です。今回の法改正で公益通報の対象となる違法行為の対象は広げられましたが、それでも法令に違反する違法行為が対象です。ところで、各事業所においては、法令に違反する行為以外にも、企業倫理の観点から不適切と考えられる行為やハラスメントなどの問題のある行為もあります。公益通報者保護法の直接の適用対象となる違法行為ではなくても、不適切な行為やハラスメントなどは、各事業所内において問題のある行為で、早期に発見して早期対応に努めるべきものです。
そこで、こうした違法行為以外の問題についても、各事業所においては、広く内部通報制度の対象として、問題の早期発見、早期対応を図る体制をつくろうとすることが適当であると思われます。
「解説」でも、公益通報の窓口と他のハラスメント等の窓口を兼ねることも可能であるとしています。こうした観点から、内部通報制度の対象を広く考えていくことが必要です。

 4.通報者の匿名性の確保

従業員などが内部通報制度の利用を行うことに躊躇することがないようにするためには、現実問題として、通報者が誰であるかについて事業所内であまり知られないようにするという通報者の匿名性の確保が重要です。
そこで、今回の法改正では、事業者は、公益通報を受け、その調査をし、是正に必要な措置をとる業務に従事する者を定めることされ、その定められた者は、「正当な理由がなく」業務に関して知り得た事項で通報者を特定させるものを漏らしてはならないこととされました。違反した者は30万円以下の罰金の対象になります。
また、「指針」においても、事業者に、通報者の情報漏洩を防ぐための措置をとるとともに、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとることを求めています。
各事業者としては、通報者の匿名性の確保が重視されるようになったことを十分に認識し、この業務に従事する者に法改正の内容をよく理解させるとともに、事業所内には通報者の匿名性の確保のための仕組みが強化された旨を周知することが適当と思われます。

5.匿名による通報への対応

通報窓口に対する通報自体が匿名で寄せられる場合があります。このような匿名による通報に対して、責任あるものではないとの冷ややかな見方をする向きもあると感じます。しかしながら、匿名によるものであっても、各事業所のなかに潜んでいる問題の発見の端緒となるかもしれません。そうした観点から、匿名での通報についても、真摯に受け止める姿勢が必要です。組織の改善のためには活用できるものは活用するという考え方が適当です。
なお、「解説」においても、公益通報者保護法において、匿名の通報であっても同法の要件を満たす通報は内部公益通報に含まれるとされています。

6.外部窓口の設置

内部通報制度の窓口を、組織の内部だけではなく、組織の外部にも設置することも考えられます。「解説」においてもこうした対応を可能としています。通報者の心理として組織内の窓口には通報しにくい場合もあり得るので、窓口の拡大により、できるだけ通報を受けられるようにしようということです。内部通報制度を前向きにとらえれば、こうした対応も有効な対応策でしょう。

7.おわりに

以上のように、この記事では、内部通報制度の運用の基本的な考え方を記しました。各事業所においては、法律で義務となったからというよりは、自らの組織の改善のために内部通報制度を活用するという観点から、取組みを進めることが期待されています。

以上