1.はじめに
東京証券取引所の市場区分については、2022年4月から見直しが行われました。その見直しに際し、各市場区分の上場維持基準について、2025年3月までは経過措置が適用されていました。
しかし、その経過措置期間が終了し、2025年3月から本来の上場基準が適用されています。対象となる上場企業及びその株主にとって、上場する市場区分、さらには上場を維持できるかどうかは、重要な問題なので、この経緯を簡単に紹介します。


2.2022年の市場区分の見直しと経過措置
かつて、東京証券取引所の市場区分は、市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダードとグロース)に分かれていました。
そうした市場区分では、各市場の位置付けに重複があるなどの問題があるとして、2022年4月から、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3区分に見直しされました。
また、見直しに際して、各市場区分の上場維持基準も厳格化されました。
ただし、すでに上場していた企業については、原則として、市場第一部の企業についてはプライム市場またはスタンダード市場を選択できるとされ、市場第二部とJASDAQスタンダードの企業はスタンダード市場、マザーズとJASDAQグロースの企業はグロース市場に移行することとされました。
そして、これらの既上場企業については、当面、本来の上場維持基準よりも緩い基準が経過措置として適用されました。
(注)プライム市場を選択した旧市場第一部の企業で、プライム市場の本来の上場維持基準を満たしていない企業については、年限を定めた基準への適合計画を開示することとされました。

(参考)各市場区分の上場維持基準と経過措置による基準の概要

 

プライム市場

スタンダード市場

グロース市場

本来基準

経過措置

本来基準

経過措置

本来基準

経過措置

株主数

800人以上

経過措置なし

400人以上

150人以上

150人以上

経過措置なし

流通株式数

2万単位以上

1万単位以上

2千単位以上

5百単位以上

1千単位以上

5百単位以上

流通株式時価総額

100億円以上

10億円以上

10億円以上

2.5億円以上

5億円以上

2.5億円以上

流通株式比率

35%以上

5%以上

25%以上

5%以上

25%以上

5%以上

売買代金/売買高

1日平均売買代金
0.2億円以上

月平均売買高
40単位以上

月平均売買高
10単位以上

経過措置なし

月平均売買高
10単位以上

経過措置なし

時価総額

    ―

   ―

   ―

   ―

40億円以上(上場10年経過後から適用)

5億円以上(上場10年経過後から適用)


3.2023年1月に経過措置の適用期限は2025年3月までと決定
2022年4月の市場区分見直し時には、経過措置の適用期間は定められておらず、当分の間とされていました。
しかしながら、2023年1月30日に、経過措置は2025年3月1日で終了することが決定されました。
なお、その決定の際、市場区分見直し前に市場第一部に所属していてプライム市場を選択した上場企業については、同日から2023年9月29日までの間は、スタンダード市場に移行することができることとされました。


4.2025年3月以降の本来基準を満たさない企業に対する取扱い
上場維持基準を満たしているかどうかの判定の基準日は、各企業の事業年度の末日とされています。
このため、例えば、3月期決算企業では判定の基準日は2025年3月末となり、他の決算月の企業についてはその決算月の末日となります。
したがって、3月期決算企業ではすでに経過措置は終了し、本来の上場維持基準が適用されています。
そして、順次、2026年2月末までにすべての企業が決算月を迎え、経過措置の適用がなくなっていきます。
経過措置終了後は、本来の上場維持基準を満たさない上場企業については、1年間は改善期間になります(3月期決算企業であれば2025年4月から2026年3月末まで)。
しかし、その改善期間に本来基準に適合しない場合は、監理銘柄(2か月間)・整理銘柄(4か月間)に指定され、6か月後(3月期決算企業であれば2026年10月1日)に上場廃止になるとされています。
ただし、監理銘柄・整理銘柄に指定されても本来基準への適合が確認されれば、指定解除になります。

(注)旧東証第一部銘柄で、プライム市場を選択してプライム市場上場維持基準への適合計画を策定している企業のうち、2026年3月以後最初に到来する基準日を超える終了期限を開示していた場合は、その期限までは監理銘柄指定が継続されます。


5.対象企業数
東京証券取引所の資料によると、2024年12月末時点で経過措置を適用している企業の数は以下の通りとされています。
プライム市場    1640社中 62社
スタンダード市場  1592社中 138社
グロース市場    610社中 47社
上場廃止は、上場企業あるいはその株主にとって大きなインパクトのある事柄です。
そのため、上場基準の達成に向けた取組み、市場区分の変更あるいは国内の他の証券市場(名古屋、札幌、福岡)への上場など、今後の各対象上場企業の対応が注目されます。


6.グロース市場の上場維持基準の見直しの動き
上記の上場維持基準の経過措置の終了の話とは別に、現在、東京証券取引所において、グロース市場の上場維持基準の見直しの検討が進められています。
グロース市場は、高い成長を目指すスタートアップに果敢なチャレンジを行っていく市場区分と位置付けられています。
そこで、東京証券取引所としては、上場基準は変えないものの、上場維持基準として、現在、上場10年経過後から時価総額40億円以上となっている基準を、上場5年経過後に時価総額100億円以上に引き上げることを検討しています。
その際、新基準の適用は、2030年以降、上場5年経過している上場企業に適用することとし、また、時価総額40億円から100億円の企業については、利益基準(年1億円以上)を満たさなくてもスタンダード市場に市場区分変更申請ができるようにするなどの措置も検討されています。
上場後5年で時価総額100億円以上という基準は高いものであり、現在未上場で、今後の上場を検討している企業にとって、IPO戦略にも影響がある見直しと考えられます。



                                                   以上

                                 弁護士法人Y&P法律事務所 弁護士 細田 隆

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