1.はじめに
最近、ハラスメントという言葉が頻繁に使われています。日本語では、「いじめ」「嫌がらせ」という言葉がよりそのニュアンスを伝えているように思います。
そして、現在では、○○ハラスメントと呼んで、様々な種類のハラスメントが認識されています。
こうした多くの○○ハラスメントのなかで、以下の4つのハラスメントについては、法律により、事業者に対策を講じる義務が課せられています。
①    パワハラ
②    セクハラ
③    マタハラ(妊娠・出産に関するハラスメント)
④    育児休業・介護休業等の取得に関するハラスメント


2.カスハラ対策の法制化
近年、従業員に対する顧客からのハラスメント(カスタマーハラスメント。略して「カスハラ」)が問題になっています。
東京都では、2025年4月から東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が施行され、罰則はありませんが、事業者もカスハラの防止に取り組むとともに、東京都の実施するカスハラ防止施策に協力するよう努め、さらに就業者がカスハラを受けた場合には就業者の安全を確保するとともに顧客等に中止を求めるなど必要かつ適切な措置を講ずるよう努めることとされています。
国については、事業者に対してカスハラ対策の実施を義務づける「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の改正法が2025年6月4日に国会で成立し、公布日から1年6月以内に施行されることになりました。すなわち、改正法は2026年中に施行されることになります。


3.今回の法改正によるカスハラ対策の法制化の主な内容
(1)カスハラの定義
まず、カスハラの定義は、次の3要素を満たすものとされました。

  • ①    職場における顧客、取引相手、施設利用者その他事業関係者の言動
    ②    社会通念上相当な範囲を超えたもの
    ③    労働者の就業環境が害されること

    (2)事業者の義務 
    事業者にはカスハラ防止のための雇用管理上の措置を講じる義務が課せられます。
    この措置義務の具体的内容は、今後、厚生労働省が告示として定める「指針」により示されますが、概ねこれまで法制化された4種のハラスメントの例を踏まえ、さらに、カスハラへの対応の実効性確保のため、
    ・事業主の方針の明確化及びその周知・啓発。
    ・相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備。
    ・カスハラ案件の事後の迅速かつ適切な対応(カスハラの端緒となった商品、サービス、接客の問題点等の改善を含む)。
    ・カスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置。
    などが盛り込まれることが想定されます。
    また、これまでの厚生労働省における検討を踏まえ、「指針」においては、顧客等からのクレームの全てがカスハラになるのではなく、客観的にみて、社会通念上相当な範囲で行われたものは、「正当なクレーム」であることや、消費者法制による消費者の権利等を阻害しないことなども示されるものと想定されます。
    事業者としては、改正法の施行までの間に「指針」が示されますので、その「指針」の内容に応じて準備を進めていくことが必要になります。



4.各事業者が注意しなければならないこと
カスハラについて、各事業者としては、改正法に基づく「指針」への対応をすればそれで済むというものではありません。改正法以外にも、カスハラへの対応について法的に注意しなければならない点があります。
カスハラは、基本的には、カスハラをした顧客等から相手方である事業者の従業員に対する不法行為となり得るものです。
しかしながら、各事業者は、その従業員について、安全配慮義務(労働契約法5条)があります。
したがって、従業員が顧客等から不当なカスハラを受けた場合、不当なカスハラを受けないよう必要な対策をしていなかったとして、当該従業員から債務不履行責任(安全配慮義務違反)あるいは不法行為上の注意義務違反による損害賠償請求を受ける可能性があります。
この点からも、適切なカスハラ対策を行うことが必要です。
また、各事業者の従業者が他の事業者の従業員にカスハラをした場合、カスハラをした側の従業者が不法行為として損害賠償責任を追及されるほか、カスハラをした従業者を使用する事業者も、使用者責任(民法715条)を追及される可能性があります。従業員の行動についての責任を問われます。
さらに、顧客等からの要求に基づき、従業員にその顧客等に対して無理やり謝罪をさせ、その結果、当該従業員にメンタル障害等の損害が生じた場合には、事業者は当該従業員にパワハラをしたとして不法行為による損害賠償責任を負う可能性があります。
以上の事業者についての各種の損害賠償責任については、これを認めた裁判例もあります。
各事業者としては、こうした様々な法律関係を考慮したうえで、カスハラ対策に十分努めていく必要があります。 


5.その他のハラスメント(就活時のセクハラ)防止対策の法制化
今回の法律改正においては、カスハラ対策のほか、男女雇用機会均等法の改正により、就職活動中の学生等に対するセクハラについても、事業者に雇用管理上必要な措置を講じる義務を課することとしました。
具体的な措置の内容については、やはり、今後、厚生労働省が「指針」として示すこととされています。
各事業者としては、就職活動中の学生等に対するセクハラへの対策についても、改正法施行までに、「指針」を踏まえた措置を準備していくことが必要となります。


                                                   以上

                                 弁護士法人Y&P法律事務所 弁護士 細田 隆

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