1.はじめに
2025年6月4日、公益通報者保護法の改正法が国会で成立しました。
法改正により、公益通報者の保護が一層強化されることになりますので、企業の内部通報制度にも影響を与えることになります。
なお、改正法の施行は公布日から1年6月以内とされていますので、2026年中に施行されることになります。


2. 内部通報制度
各事業者においては、コンプライアンス事案等の未然防止、早期発見を図るため、内部通報制度を設け、組織の内外から情報を得て、問題となる事案を把握し、調査・対応を行うことが通常になっています。
コーポレートガバナンスコードにも内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである旨が記載されています。


3.公益通報者保護法
内部通報制度では様々な事実についての通報が取り扱われることが通常ですが、これらの通報のうち、「公益通報」がこの公益通報者保護法の対象とされています。
この「公益通報」とは、違法行為のなかでも最終的には刑罰や行政罰の対象となる行為についての通報のこととされています。
法律上は、少々難しい表現ですが、公益通報者保護法及び国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる刑法その他政令で定める一定の法律に規定する罪の犯罪行為の事実又は過料の理由とされている事実、さらには、規定違反に対し主務大臣の命令等が用意されその命令等違反が罪となる場合のその規定に違反する事実等の通報とされています。公益通報者保護法は、2006年に制定され、2022年に改正されていますが、公益通報をしたことを理由として事業主が公益通報者に対して不利益な取扱いすることを禁止するとともに、公益通報のうち一定の要件を満たすものであれば、当該事業者への内部通報に限らず、権限のある行政機関あるいはマスコミに対する公益通報も保護の対象とし、事業主による公益通報者への不利益な取扱いを禁止しています。
また、常時使用する労働者数が300人超の事業主は、公益通報を受け、調査し、是正措置をとる業務に従事する者(公益通報対応業務従事者)を定め、体制整備その他の必要な措置をとることとされています(300人以下の事業主については努力義務)。
なお、この公益通報対応業務従事者は、正当な理由なく、公益通報者を特定させる事項を漏らしてはならず、違反は刑事罰の対象となるとされています。


4.今回の法改正の概要
今回の法改正の概要は以下の通りです。

(1)従事者指定義務を違反した事業者への対応(15条の2、21条、23項) 
常時使用する労働者数が300人超の事業者は、公益通報を受け、調査・是正措置をとる業務への従事者を定めなければならないこととされていますが、今回の改正で、この従事者を定めていない場合には、内閣総理大臣の是正命令権が規定され、その是正命令に従わなかった場合には刑事罰が課せられることになりました。
なお、この結果、従事者指定義務違反の事実が公益通報の対象事実になり(2条3項)、指定義務を履行していない事業者に関する内部の労働者等からの公益通報が増えることが見込まれるとされています。

(2)公益通報者を探索する行為の禁止(11条の3)
事業者は、正当な理由なく、公益通報者である旨を明らかにすることを要求することその他の公益通報者を特定することを目的とする行為をしてはならない旨が規定されました。

(3)公益通報を妨害する行為の禁止(11条の2)
事業者は、正当な理由なく、労働者等に公益通報をしないことの合意を求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為によって、公益通報を妨げてはならないと規定するとともに、これに違反する合意その他の法律行為は、無効と規定されました。

(4)公益通報を理由とする不利益な取扱いについての立証責任の転換(3条)
公益通報者に対する解雇は現行法でも無効とされており、さらに今回の改正法により懲戒も無効とされることになりました。
また、公益通報者に対する解雇又は懲戒が公益通報から1年以内にされたときは、公益通報をしたことを理由としてされたものと推定されることになりました。
立証責任が転換されることになります。

(5)公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止(3条、21条、23条)
事業者が公益通報者について公益通報をしたことを理由に解雇又は懲戒をした場合は、刑事罰の対象とされました。
また、法人については、刑事罰が重課(3千万円以下の罰金)されることになりました。

(6)通報主体や保護される者の範囲の拡大(2条、5条)
公益通報の保護対象に、事業者と業務委託関係にあるフリーランスが追加されました。
そして、事業者は、業務委託関係にあるフリーランスが公益通報をした場合に、公益通報をしたことを理由に契約解除、取引量の削減、取引の停止、報酬の減額その他不利益な取扱いをしてはならないと規定されました。


5.終わりに
内部通報制度は、各事業者がその内部の問題点を早期に把握し早期に対処するために、事業者自身にとっても、大変有益な制度です。
すでに多くの事業者が内部通報制度を設けている状況です。
各事業者は、今回の法改正も一つの契機として、内部通報制度がより機能するように努めていくことが重要です。




                                                   以上

                                 弁護士法人Y&P法律事務所 弁護士 細田 隆

弁護士法人Y&P法律事務所は
税理士や公認会計士と緊密に連携し、
これまでにない新しい付加価値をご提供いたします

  • TOP
  • リーガルニュース
  • 公益通報者保護法が2025年6月に改正され、公益通報者の保護が一層強化されます