弁護士法人Y&P法律事務所

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2020. 06.10 [ リーガルニュース ]

公益通報者保護法が改正され、公益通報に係る対応窓口の設置等の体制整備が事業主の義務になりました(施行は2年以内)

執筆:細田 隆

1. はじめに

2020年6月8日、事業主に公益通報に係る対応窓口の設置等の体制整備を義務付けること(従業員300人以下の中小企業については努力義務)、通報者の匿名性の確保の強化、保護対象の拡大などを主な内容とする公益通報者保護法の改正法が国会で成立し、6月12日に公布されました。施行は公布日から2年以内とされています。企業の内部通報制度への影響も大きいと思われるので、紹介します。

2. 内部通報制度

各企業においては、法令違反等の早期発見と未然防止などを図るため、組織内外の者からの申告を受け付けて調査・対応する内部通報制度を設けている場合が多くなっています。上場企業を対象とするコーポレートガバナンス・コードには、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである旨、書かれています。

3. 公益通報者保護法

内部通報制度に関係する法律として、2006年に公益通報者保護法が施行されています。この法律は、従業員の通報のうち、国民の生命・身体・財産等の利益の保護に係る一定の法律に規定する犯罪行為等についての事実の通報(この通報を公益通報といいます。)を保護の対象としており、公益通報を理由として事業主が通報者に対して不利益な取扱いをすることを禁止しています。他方、公益通報のうち一定の要件を満たすものであれば、当該企業への内部通報に限らず、権限のある行政機関あるいはマスコミなどに対する公益通報も保護の対象とし、事業主の通報者に対する不利益な取扱いを禁止しています。

4. 公益通報者保護法の改正

2020年6月の公益通報保護法の改正の主な内容は、次の通りです。

① 事業主に公益通報の対応窓口設置等の体制整備を法律上義務付ける。
なお、従業員300人以下の中小企業については、設置は努力義務とする。

② 匿名性の確保のため内部調査に従事する者に、正当な理由なく通報者を特定させる情報の漏洩を禁止するとともに、違反には罰則(罰金)を設ける。

③ 公益通報に伴う通報者の損害賠償責任を免除する。

④ 保護対象となる公益通報の範囲を拡大する。

⑤ 保護対象となる権限のある行政機関あるいはマスコミ等への通報の範囲を拡大する。

⑥ 保護対象となる通報者を従業員に限らず、退職者と役員にも拡大する。

なお、この改正部分の施行は公布日(6月12日)から2年以内とされており、施行までに、この法律を所管する消費者庁が運用の指針を定めることになっています。

5. 各企業における内部通報制度の運用について

公益通報者保護法の改正法の施行まで2年ありますが、各企業としては、次の点に留意しながら準備を進めることが必要です。

① 内部通報制度の整備
既に多くの企業は内部通報制度を設けていると思いますが、未整備のところは整備しなくてはなりません。中小企業については努力義務にとどまっていますが、内部通報制度は法令違反等の早期発見と未然防止のために有意義な仕組みであり、この機会に体制を整備することが望まれます。企業に内部通報制度がないか、あるいは存在しても機能していないと、不正を発見した者は外部に通報(内部告発ともいわれる)することになるかもしれません。

② 内部通報制度の対象
公益通報者保護法の保護対象は、国民の生命・身体・財産等の利益の保護に係る一定の法律に違反する犯罪行為等に関する事実の通報に限定されていますが、内部通報制度を設ける以上、内部通報制度の対象をこれに限定する必要はありません。様々な声を聞くためには、通報対象をこれ以外の問題に広げることが適当です。

③ 通報者への不利益な取扱いの禁止と通報者の匿名性の確保
内部通報制度が機能するためには、通報者が公式・非公式の報復の恐れがないようにすることが必要です。そのためには、通報者の匿名性の確保が重要です。公益通報者保護法でも通報者に対する不利益な取扱いの禁止に加え、今回の改正で通報の窓口が通報者の匿名性を確保すべきことを規定し、違反には罰則を課すことにしました。内部通報制度の運用において、公益通報者保護法の対象外の事実の通報についても、通報者に対する不利益な取扱いを禁止するとともに、通報者の匿名性を確保することが重要です。

④ 通報内容を真摯に受け止める
内部通報制度を設けると、不正に限らず、様々な声が寄せられます。企業の問題点の改善のためには、そうした声のひとつひとつに真摯に向き合い、事実を確認し、対処するという姿勢が大事です。

⑤ 複数のルートを確保する
内部通報制度のルートとしては、様々なものが考えられます。通報者により使いやすいと感じるルートは一様ではないので、社外も含めて複数のルートを設けることが適当であると考えられます。コーポレートガバナンス・コードでも、「経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべき」としています。

以上