弁護士法人Y&P法律事務所

map
2022. 01.14 [ リーガルニュース ]

2022年4月1日から、中小企業においてもパワハラ防止対策が義務化されます

執筆:細田 隆

1.企業に対するハラスメント防止対策の法制化

最近、世の中ではハラスメントという言葉が頻繁に使われるようになりました。日本語では「いじめ」や「嫌がらせ」といった言葉が、そのニュアンスをよく伝えているように思います。こうした意味を持つ「ハラスメント」という言葉がよく用いられるようになっていること自体、決して良いことではありません。
そして現在、○○ハラスメントということで、様々な種類のハラスメントが認識されるようになっています。そうした様々なハラスメントのなかで、特に企業に対しては、

①パワハラ
②セクハラ
③マタハラ(妊娠・出産に関するハラスメント)
④育児休業・介護休業等の取得に関するハラスメント

の4種について、法律により防止対策を講じる義務が課せられています。
今回は、特にパワハラ防止対策について取り上げます。

2.パワハラ防止対策の法制化について

企業に対する4種のハラスメント防止対策の義務化のなかで最も法整備が遅れたのが、パワハラ防止対策でした。重要なハラスメントでありながら法整備が遅れたのは、パワハラか否かの判断が結構難しいと考えられることを反映したのかもしれません。
企業に対するパワハラ防止対策の法整備は、具体的には「労働施策総合推進法」(正式には「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)に、企業がパワハラ対防止対策を行うことを義務化する条文を追加することにより行われました。
その法改正は2019年5月に成立し、2020年6月1日から施行されました。この結果、企業は2020年6月1日以降、パワハラ防止対策を行うことが義務化されました。

3.中小企業についての猶予

しかしながら、この法改正においては、中小企業については、より長い準備期間が必要であるということで、改正法の附則により、政令で定める日まではパワハラ防止対策の義務化は猶予され、努力義務にとどまっていました。
なお、この猶予の対象となる中小企業は、中小企業基本法と同じ定義を用いており、業種に応じて以下のとおりとされています。

中小企業とは業種に応じ①又は②のいずれかを満たすもの

4.猶予の期限の到来

このように、中小企業についてはパワハラ防止対策の義務化が猶予されてきたのですが、政令により猶予期間は令和4年3月31日までと定められ、この結果、令和4年4月1日からは、中小企業についても義務化されることになっています。

5.中小企業が講じることが必要な措置

したがって本年4月1日以降は、中小企業においてもパワハラ防止対策として雇用管理上「必要な措置」を講じなければなりません。
この「必要な措置」の具体的な内容は、厚生労働省の告示「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」に示されています。
また、このリーガルニュースの「2020年6月1日からパワハラ防止対策が法制化されます」の記事(2020年5月29日付)にも書きましたが、概要は以下のとおりです。

・事業主は、パワハラがあってはならない旨の事業者の方針を明確化し、また、パワハラについては厳正に対処する方針及び対処の内容を就業規則その他の文書に規定し、管理監督者を含む労働省に周知・啓発すること
・事業主は、相談窓口をあらかじめ定め、相談に適切に対応する体制を整備すること
・事業主は、パワハラ事案の相談のあった場合に、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと、また、行為者に対する措置を適正に行うこと、再発防止に向けた措置を講ずること
・上記にあわせ、相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な措置を講ずるとともにその旨を周知すること、また、相談をしたことや事実関係の確認等に協力したことなどを理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること

 事業主が従わない場合には、厚生労働大臣は、事業者に助言、指導又は勧告をすることができ、その勧告に事業主が従わなかったときは、厚生労働大臣はその旨を公表できることになっています。

6.中小企業に求められること

企業は、大きくても小さくても利益あるいは売上などの企業目的を追求し、また職制上の上下関係が明確な組織なので、管理者が業績向上のプレッシャーのなかで、パワハラ事案を起こしやすいという土壌があります。
ただ、パワハラが起きればその被害者は大変な思いをするので、社員にとってはパワハラは重大な関心事です。また、社員がそうしたパワハラ被害を受けるような企業であれば、当事者のみならず、職場環境の悪化により社員全体の勤労意欲の低下も招きかねず、また企業としての評価も低下する恐れがあり、経営問題としても重大事です。
したがって各企業においては、告示に基づく「必要な措置」の具体化を実施することはもちろんですが、そればかりでなく、さらにトップを中心に、パワハラが起こらない企業風土をつくるということを意識することが、何よりも大切なことだと思われます。

以上